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27 Feb 2026

食卓やキッチンから聞こえてくる音、香り、会話――。

シズル感あふれた料理の美味しさに加えて、そんな風景とそこにある幸せな空気までを伝えるのが、佐藤万智弥の真骨頂です。


スチールも動画も、料理もモデルも、シームレスに撮り、ひとつの世界観で包み込む。

それもまた彼の得意技です。


ロジックとアート性を、絶妙な匙加減でまぜる、そのセンスのルーツとは? 日々、どんな思いでファインダーを覗き、どこを目指しているのか? あれこれ聞いてみました。


音楽家のもとに生まれ、海に憧れて育った。


――アマナに入る前は、海洋生命科学部で研究されていたそうですね。


はい。そもそも僕は電車もバスも通っていないような神奈川の山奥生まれなんです。その反動で、子どもの頃から青く広い海に憧れが強く、魚やイルカなどに魅かれていました。そしてずっと「水族館の職員になりたい」が夢で、それを叶えるため、海洋生命科学部に進学しました。


――写真はいつから撮り始めたのですか?


大学2年のときですね。写真学校に入った友人がいて、彼女の写真を見せてもらう機会があったことがきっかけでした。


線香花火を一眼レフで撮った一枚がとても美しく、心を動かされたことを覚えています。その後すぐに、バイト代で一眼レフを購入して、写真にのめり込んでいきました。


ダイビングの免許も持っていたので、ウミガメ保護のボランティアで行った小笠原諸島の海に潜ってロクセンスズメダイやイルカを撮ったり、森で野鳥を撮ったり……。週末や夏休みなどはとにかく写真を撮るために自然の中に飛び込む生活をしていました。


ですので、その頃は、海洋生物をメインにした動物写真家になれたらいいな、と思っていましたね。



――しかし新卒でアマナに入社し、広告写真の世界に入られました。


大きく影響したのは、家族で行ったインド・ネパール旅行での経験です。


僕の父はネイティブ・アメリカンフルートという北米の伝統的な木管楽器の作り手でミュージシャンなんです。世界を旅しながら、世界各地の伝統楽器とセッションするような生活を送っていた人。その旅の途中に訪れたヒマラヤ山脈のマチャプチャレという山があり、それが僕の「万智弥(マチヤ)」という名の由来。ちなみに姉は「アンナ」なのですが、マチャプチャレの側にあるアンナプルナからつけられました。


「子どもたちの名前の由来である山を、家族全員で見に行く」のが両親の夢だったようで、僕が大学3年のときに4人でバックパッカーの旅でその山を見に行ったんですよ。


――カッコいいストーリーですね。


父は根っからの自由人というか、アーティストなんですよね。その旅の途中、もちろんカメラを持っていき撮影もしていたのですが、偶然、ネパールの首都カトマンズで、写真家の阿部裕介さんにお会いしたんです。


当時は阿部さんのことも知らず、写真についてあれこれ話したわけではありません。けれど、とても心地よい雰囲気の方で。帰国後、その阿部さんがTHE NORTH FACEのすばらしい広告写真を撮影していると知りました。


ドキュメンタリーのような阿部さんの写真が、広告として使われ、その写真をきっかけに企業にかかわる人たち、プロダクトを購入して使う人たちがいた。写真を通して、大勢の人に「よろこび」や「幸せ」を与えられるのは、すばらしいことだなと感じるようになりました。


――そして広告写真に興味を持ったわけですね。


同時に、動物写真を職業としていくことの難しさもわかりはじめていたので、広告を含めたもっと広い写真の道を考えました。そして就職情報サイトで「写真」にまつわる文言があった会社を探し、なんとかアマナに採用してもらいました。


もっとも写真は独学、完全に理系の大学生でしたから。実は当時、hueには、僕と近い研究をしていた東京水産大(現東京海洋大学)出身のフォトグラファーの方がいたんです。



面接では自分の作品を前にプレゼンをするのですが、その方が「どんな研究していたの?」といろいろ聞いてくれ、のびのび話せたのも良かったのかもしれません。いずれにしても、よく採ってもらえたなとは、思いますね(笑)。


――hueは、食に特化したシズル写真の専門家集団です。食の写真への興味は以前からあったのでしょうか?


特別、強い興味は持っていたわけではありません。ただ、暮らしや生活、日々の営みを伝えるような写真が好きで、よく撮っていたんですよね。暮らしの中には、必ず食がある。その意味では違和感がありませんでした。



また食品のパッケージや広告などの美味しそうな写真をどのようにつくりあげているのか、シンプルに興味もあって飛び込んだ面もありましたね。



ゴールだけを切り取るのではなく。


――実際、現場に入ってみた感想はいかがでした?


毎日、本当に面白かったです。ご存知のとおり、hueには食の写真を専門にしたフォトグラファーが揃っていますが、それぞれの得意分野があって、色がある。


その現場でアシスタントをしながら、それぞれのフォトグラファーが「美味しさ」を撮るまでの過程を垣間見られ、学べるのは単純に楽しいし、とても身になりました。


入社が2020年とちょうどコロナ禍のロックダウンと重なったため、現場にクライアントの方がいらっしゃらない撮影が多かったことも、いま思うと良かった。


――どういうことでしょう?


アシスタントをしながら、「このハイライトはどんな狙い?」とか「こちら側のライトはどういう効果のために?」と撮影現場で先輩フォトグラファーに周囲を気にせず聞けましたからね。


理系のせいか、僕は「どのようにすれば良い写真が撮れるか」の因果関係を理解したいタイプなんです。とろけるチーズはどのような仕掛けで撮るのがいいか、肉汁溢れたステーキ肉をどうすれば写真の中で臨場感をもってみせられるのか。そうした理屈を腑に落ちるまで学び、週末は自分でそれを再現する。そんな日々でした。


とくにアシスタントの2年目、3年目は、梶賀康宏さんというシズル動画を得意とする先輩にベタ付きでアシスタントをさせてもらえました。いま、動画をメインに撮らせてもらっていますが、このときにじっくりと現場で学べたことが、僕の血肉になっていると感じます。


――一方でこの頃はご自身の作品としては、食だけではなく、漆器職人や木地師といった方々を被写体にした写真を多く撮られていますね。


仕事ではどうしても「できあがった料理」を撮る機会が多くなります。前後があったとしても、調理の瞬間くらい。いわばゴールのところしか見せられないことが多いわけです。


けれど、食の世界はもっと広い。


食材を育てる農作業も、食卓を彩る食器づくりも、あるいは食事中の会話や、後片付けなども含めて、ひとつの料理を形作っています。また、その幅広い時間の中には、美しい所作や、すばらしい技術、そして幸せな時間がたくさんあると思っています。


そうした食のまわりにあるひろがりを伝えたくて、小田原や能登の職人の方々にお願いして、仕事を撮らせてもらいました。口数は少ない方が多いのですが、一挙手一投足が洗練されているんですよね。シンプルに伝えたい、残したいと感じました。




――作品では、また生活感のある、暮らしを匂わせる写真も多いです。


アシスタント時代からずっとそうです。これもゴールだけじゃない食の世界を伝えたい気持ちがありますね。


生活の中にある食事の風景、そこにある空気、雰囲気を伝えたい。だから、キレイに作り込みすぎた料理メニューではなく、生活感溢れた木のテーブルに、パンくずがそのまま落ちていたり、使いかけのカトラリーが映り込んでいたり、を意識して撮っていますね。


あとは「音」かな。


――音?


食事のときに聞こえる食器とフォークがあたる音、食卓ではずむ会話、料理をしているときの蒸気や炒め物の音とか。食のまわりにはたくさんの音がある。生活の中にある豊かな音、ですよね。


写真から音は聞こえないけれど、なんとかして美味しさをとりまく音を感じさせたいと考えています。わざとオールドレンズを使って温度感のある写真にしたりするのも、そのためです。どこか懐かしい画になって、記憶の奥底にある「食の風景」が光や音とつながってわきあがるような効果を狙っています。




――なるほど。万智弥さんの写真にどこか「懐かしさ」や「親しみやすさ」を感じるのもそのためかもしれませんね。それにしても、ものづくりの所作や音に魅かれるのは、アーティストでミュージシャンでもあるお父様の影響もあるのでしょうか?


どうですかね(笑)。ただ確かに、楽器に囲まれた家ではあったので、多少、感性は磨かれたのかもしれません。


ただ、食のまわりにある暮らしや所作、音や美しさを意識したのは個性あるhueの先輩フォトグラファーたちと違う個性を際立たせたかった結果でもあるんですよ。



シズル撮影もモデル撮影も、世界観を揃える


――そんな万智弥さんの”らしさ”が出た仕事でいうと、何がありますか?


ハーゲンダッツのWEBCMでしょうか。リッチな空間の中でモデルがいるシーンと、シズル感あふれたアイスが交互に出てくる。モデル撮影は僕じゃないのですが、世界観を壊さないようにシズル撮影もミュージックビデオのように撮らせてもらいました。


おもちゃのような特殊なレンズを使って、ほんの一部にだけフォーカスが合うようにして、周りをぼかし、カラーも美味しそうな質感を消さず、しかし、モデル撮影の雰囲気を壊さないギリギリを狙いました。



サブウェイの動画もそうですね。 季節感を強く出すので、モデルがいるシーンとシズル撮影のシーンが違和感なく 「秋っぽさ」や「冬っぽさ」の中でくるまっているかなと。



――独特の世界観の動画でも、シズルシーンになると突然、生々しくなって違和感を抱くようなことがままありますが、それを避けたわけですね。


ひとつの動画として、モデルも風景も料理も違和感なくひとつの世界観で見せ続けるのは得意です。 食のまわりを広く撮り続けてきた経験は活きている自負があります。


また最近は「シズル撮影ができる人にモデル撮影もお願いできないか」という案件が増えています。 「モデル撮影のついでに料理も……」という話はあると思うのですが、 テクニカルなシズル撮影をしっかりできてモデルも撮れるという人は実はそれほど多くないと思うので、 そこは強みになっていくのかなと感じています。


養命酒の案件などは、実際、モデルも商品も僕が撮らせてもらいました。



――もっとも、シンプルなシズル撮影を押した「しめじ」のCM動画も印象的でした。



ありがとうございます。


食の周りにあるなにか、たずさわる人に広く目を向ける僕のクセは、そのままクライアントやディレクターの"想い”を感じ取って形にしたい、というモチベーションにもつながっている気がするんです。


ですので、しめじのCMも「なんとか使い勝手の良さ」をうまく表現したい、とメーカーの方もディレクターも狙いが明確だった。


そこで、袋から直接鍋にしめじを入れるシーンが特徴的だったと思うのですが、あれは僕から提案させていただきました。コンテでは横から撮る演出だったのですが、より際立たせるために「鍋から目線」のトリッキーな画角で撮らせてもらいました。


――確かに、上からしめじが降ってくる、強い印象の画でした。またわかりやすいだけじゃなくて、少しかっこよくしめじが撮られているのもユニークでしたね。


美味しそうで、わかりやすく、かっこよくて、ちょっと面白おかしく、という難しいテーマでした。 ただhueで積み上げてきた経験とテクニックを提案し、うまく形にできたかなと思いますね。


――あと「ドミノ・ピザ」の案件も思い出深かったと伺っています。


チーズを火山の中にあるマグマに見立てた「チーズボルケーノ」という商品があったのですが、そのCMを撮らせてもらったものですね。


撮影には、当然、本物の商品を使うのですが、「火山に見立てた」といっても、実際の高さは約2cm。なかなか火山らしく見せるのが難しかったです。


そこでマクロレンズとロボットアームを組み合わせて、ぐっと遠目から火山に近づくように何度もテストを繰り返して、ようやく迫力ある形にみせられました。「思った以上に火山が表現できている」とクライアントにとても喜ばれたし、世間でも話題になりました。

僕にとって大きな自信につながったターニングポイント的な仕事でしたね。


――でも考えてみたら、納得ですね。生物系の学部卒の万智弥さんは、シズル撮影を仕事にしている中で、最も火山などの自然を知っている人かもしれませんからね。


言われてみれば、そうですね(笑)。


――今後はどのような撮影をしていきたいですか?


スチールも動画も、料理からモデル撮影まで幅広に手掛けていますが、やはりシズル撮影は軸にして続けていきたいです。


最初に抱いた想いをこれからも形にして、僕が撮ったもので、より多くの人たちの心を動かし、「食べたい」「美味しい」「すばらしい」と思ってもらえたらうれしいです。


あとやっぱり、いつかは「海」に関連した仕事をしてみたいですね。原点でもある場所ですから。

profile 佐藤万智弥・さとうまちや 1997年生まれ。北里大学海洋生命科学部を卒業後、2020年アマナ入社。 料理を囲む時間に流れる食器の音や、人と人のさりげない会話が聞こえてきそうな、 温かみのある写真や映像を得意とする。 近年はその感性を活かしながら、ハイエンドな食シズル動画の撮影を数多く手掛ける。 湯気、音、光を駆使した「直球なシズル表現」から、 物語性を感じさせる映像演出まで、幅広いアプローチで“おいしさ”を表現。 クライアントの意図を丁寧にくみ取りながら、記憶に残るシズル表現を大切にしている。


Photographerへ5つの質問


1.趣味は?

海外旅行、サウナ、ダイビング、お酒


2.好きなフォトグラファーは?

公文健太郎 阿部裕介


3.自宅のカベに貼ってある写真は?

モネの抽象画


4.撮影中によく流す音楽は?

藤井風。同じ年なんですよ


5.フォトグラファーとして大切にしていることは?

求められていることを理解して、最大限に力を発揮すること



<文/箱田高樹>


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