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12 Nov 2025

Photographer ソンジン

「アマナらしさ」のDNAをもっとも色濃く引き継いだフォトグラファー。 自他共にそう認めているのが、ソンジンです。


プロダクトの質感と美しさ、モノの奥底にひそんだ物語。それらをつかみとったようなハイコントラストな彼の写真は、ほぼCGを使わないリアルな撮影によって生み出されています。


現場の最前線でプロダクトヒーローを創り出す“最も若い巨匠”の現在地を聞きました。

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ファインダーを覗くときだけ見せた、顔。


――プロダクト撮影の印象が強いですが、最初はフェスなどのライブばかり撮られていたそうですね。


10代でアマチュアの頃の話ですけどね。僕は韓国のソウルで生まれ育ち、20歳直前のとき、EDMが爆発的に流行る前夜でした。


カメラが趣味なうえ、クラブに出入りしていたこともあって声をかけられ。EDMのフェスやイベントの撮影をし、オフィシャルサイトに掲載してもらっていたんですよ。


リキュールを片手に会場を周りながら撮るような、撮影スタイルでしたが。それでも「観客をメインに撮る」「花道の最前線であおるように撮る」といった僕がはじめたスタイルが今も韓国のライブ撮影の基本フォーマットになっているのは、少し自慢です。



――そもそも写真はいつから撮るように?


高校で写真部に入ったのがきっかけです。写真部だけ「ロケ撮影」と称して校外活動ができたんです。「楽しそうだな」と不純な理由で入部しました。


社交的だったこともあり、3年のときには部長になりました。ただその頃、僕が少し荒れはじめて、学校をサボりがちな時期になったんです。すると顧問の先生に「遊んでいるなら手伝いに来い!」とブライダルの撮影のアシスタントをしたことが転機になりました。


――先生がブライダルのフォトグラファーもしていたんですか?


そう、バイトしていたんです。もっとも、驚いたのは、撮影現場での先生の顔でした。


「幸せの瞬間を撮ってやる」とハンティングのような真剣な目つきでファインダーを覗いていた。授業では見られない表情にカッコよさを感じました。自分もこんな仕事がしたい、とフォトグラファーを目指すように。


そして先生のアシスタントとなり、バイト代をためて、一眼レフを購入。大学進学をして理系に進んだりもしたのですが、その後、「やはり写真の道を」と退学。冒頭に述べたフェスの写真を撮るようになっていた、というわけです。


――その後、来日して日芸(日本大学芸術学部)の写真学科で学ばれていますね。


はい。ただ、スムーズに進学したわけじゃなくて。きっかけは山本耀司さんだったんですよ。



2人の巨匠に師事した、アシスタント時代。


――山本耀司さんて、ヨウジヤマモトの?


はい。姉が日本でヨウジヤマモトに就職して、本社勤務をしていたんです。



ある時、姉が仕事で耀司さんとソウルを訪れたことがありました。 当時、僕は兵役で空軍に所属していたのですが、ちょうど休暇が取れたので、一緒にソウルを案内したことがありました。


その際に、「こんな写真を撮っています」とフェスで撮影した写真を見せたら、耀司さんが気に入ってくださって、「ファッションに興味はないか?」と誘ってくれたんです。


ただ、その頃の僕は日本語がまったく話せず、大学も卒業していなかったので、自分のキャリアに自信が持てませんでした。 そこで、「今からすべてを積み上げよう」と決意し、独学で日本語を学びはじめ、日芸を受験して合格しました。






――今は日本語が上手すぎて違和感ありませんが、その当時、日本語と受験の勉強を同時にするのは大変だったのでは?


でしたね。実際、筆記テストはほとんどひらがなだけで書いた気がします。ただ、フェスを撮った自分のブックがあったのが良かったのかなと。


もっとも日芸でイチから写真を学ぶと、自分がまったく狭い世界しか知らないことに気付かされました。撮影技法や知識だけの話しではなく、フォトグラファーの領域もあまり知らなかった。学ぶうちに商業カメラマンとして仕事をしたいと考え、耀司さんにご挨拶した上で、2018年、アマナに入社したのです。


――入社後、アシスタントとして最初に師事されたのは、小山一成さんだったそうですね。


アマナ創立メンバーのひとりで、ブツ撮りの世界ではレジェンドと呼べる存在です。実は他の部署からもお声がけいただいていたのですが、日芸の教授に相談したところ「プロダクト写真を学びたいなら小山さん、一択だよ」と推されて、決めました。


そして最初の2年間は小山さんの下で学び、3年目からは曽根原さんのアシスタントを経験しました。


――曽根原さんも、プロダクト写真ではトップレベルの存在です。二人のレジェンドの下についた方は珍しいのでは?


そうですね。二人とも忙しく、ハードな現場が多かったのですが、それでも前のめりでついていく自分のキャラクターみたいなものも評価されたのだと思います。軍隊での経験がここで活かされました(笑)。




いずれにしても、とてもよい経験を積めました。 2人ともタイプは違っても、アマナらしいタッチのプロダクト写真を数多く残している。 アマナのDNAを自分が引き継ぐつもりでアシスタントをしてきた。 今も仕事をするとき、僕の誇りとして真ん中にありますね。


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自分ほど、シズル表現を突き詰めている若手はいない。


――ソンジンさんのブックを見ると、まさに2人から受け継いだアマナらしい艷やかで、力強いプロダクト写真が多いですね。


意識していますね。とくに曽根原さんについていた最後のほうは、いつも「お前はもう十分キレイにブツ撮りできる。あとは自分らしさを表現できるような作品を撮らないと」と言われていました。


最初は悩みましたが、考えてみたら、僕のような王道のプロダクト写真、シズル表現を突き詰めている若手フォトグラファーってほとんどいない。ならば、むしろそこを突き詰めて王道を歩んでいこうと決めたんです。


あと僕の特徴は、CGを使わず、できる限りフィジカルの仕掛けをつくって撮影していることですね。


――えっ、カラフルな液体が容器にまとわりついているこの写真も、香水ケースを回り込むように塗料が浮いているこの写真も、CGではない?






はい。左はグリセリンを使った粘度のある液体に食紅やインクを混ぜて、吊るした容器の上に実際に投げつけながら撮影しました。何度も繰り返したうちの良い写真をつなぎあわせてつくったものです。


右は実際に歪曲させた透明のフィルムに塗料を塗って、ちょうどケースを取り囲むようにして撮りました。


――この焼酎の瓶が滲んだような写真と、雲の上に乗っているような写真は?



左の写真は、腰をすえて飲んで、飲んで、飲みまくっって、心地よく酔いがまわったムードを表現しました。


右の雲の写真は、上下逆さにするとわかると思います。実は、水の入った透明な水槽に真露を逆さに入れて、そこに質量の違う白い色のついた塗料を流し込んで、ちょうど瓶を包み込み始めたところを狙って撮ったものなんですよ。





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こっちの割れたケースの写真も実際にガラスを割って撮影している。イメージは明確にして、万全の準備を整え、欲しい画が撮れるまでシャッターは押し続けます。けれど、実のところガラスがどう割れるか、破片がどれくらい飛び散るかといったところまでは計算できないまま撮っているんです。



――無粋な質問ですが、CGやフォトショップを使えば計算した確実な狙い通りの画がつくれませんか?


つくれます。ただ「狙い通りになる”だけ”」ともいえますよね。


僕自身、頭に思い描いた狙い通りの画を再現するよう、極めて計算して作り込んで撮影しています。


しかし、リアルな撮影だと、最後の最後は偶然性がプラスされるんです。


ガラスがどう飛び散るか。

液体がどのようにはねるか。

破片がどこに飛び、色がどう重なり合うか――。

自分では思ってもいなかった何か、が必ず宿る。


――なるほど。そうした偶然性によって、自分の考え以上のアウトプットが撮れるかもしれない。


CGで作り込もうとすると逆にできないような偶然が必ず起こります。


だからおもしろい。

「こんなところに破片が飛ぶの?」とか「この色がこっちまで入り込むんだ!」と驚かされますからね。


まったく違う領域ですが、考えてみたら偶然性の固まりのようなフェスやライブで撮った感覚が、プロダクト撮影でも少し残っているのかもしれません。


――クライアントワークでもやはりシズル感、躍動感がすごいですね。当然、ほとんどが加工やCGを使っていない?


使っていません。たとえば、バオ バオ イッセイ ミヤケのプロダクトはレギュラーで撮らせてもらっていますが、すべて実際に僕が仕掛けからつくってリアルで撮ったものです。


これは色紙をひいた上にガラスを置いて、そのうえに生クリームと乳液を混ぜたものを乗せて、バッグが滑り込んだようにして撮りました。


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――この煙のような一枚は、まさにご自身の作品と同じ手法?


はい。水槽の中にバッグを入れて、塗料を流し込みました。こうした試みが気に入っていただけてうれしい限りです。


――一転、炎をまとったタイガーの炊飯ジャーの写真はすごい迫力ですね。


もちろんこれも本当に炎をたいて撮影しました。 数少ない火を使って撮影してもいいスタジオが新木場にあって、そこで撮りましたね。いわゆる今、流行のフィルムライクなテイストよりこうしたはっきりとしたプロダクトが際立つ写真が好きだし、得意ですね。


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――しかし、炎にしろ水にしろ、瞬間を切り取るような撮影になります。再現性も低いうえ、何度も撮るわけにもいかない。「これがベストショット」と決断するのは難しくないですか?


確かに一瞬を切り取る撮影になりますが、 いい写真はシャッターを押した瞬間に「撮れた」「コレだ」と分かるので。


たぶん、それは小山さん、曽根原さん、2人の巨匠たちの現場を繰り返し見てきて、目が肥えた面はあると思います。審美眼と決断力のようなものは磨かれてきたのかなと。



同様に、仕掛けもこれまでほとんどをつくってきた経験があるので、逆に別の仕掛け師と呼ばれる専任スタッフに頼むよりも、頭の中のアイデアを正確に具現化しやすいですしね。


――ボンベイ・サファイアのこちらはキリッとしたクールさと静謐な安らぎが同居した、いい写真ですね。


ありがとうございます。余談ですが、自分の作品でいろんなバリエーションで焼酎を撮っていたことが縁で選ばれました。お酒、好きでよかった。


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――今はどんな瞬間に、仕事の醍醐味を感じていますか?


2つあります。ひとつは「自分がこう撮りたい」と思った写真が思い描いたとおりに撮れたとき。もうひとつは仕上がった写真を見てクライアントなど他の方が「喜んでくれたとき」。


つまるところ、自分も他人もふくめて、誰かのハートを動かしたときに、一番喜びを感じていますね。


そんな仕事がいまできていることに、本当に日々、感謝しているし、運が良かったなと思っているんです。


――運、ですか?


ええ。高校の頃、写真部の先生のアシスタントをしなければカメラにハマることもなかった。耀司さんと出会わなければ日本にくることもなかった。教授のすすめがなければアマナで巨匠の下で学べることもなかった……。運よくいろんな素晴らしい方々と出会えたから今の自分がありますからね。


――今後はどのようなビジョンを?


プロダクトヒーローの道をまっすぐにすすみながら「ソンジン」のブランドを確立させていきたいですね。日本を超えて韓国、また他の国でも仕事をしていきたい。


この領域は、ライバルが巨匠ばかりで、大変ですけど、やれるとも思ってもいるんですよ。


何よりこのジャンルが好きで、どこまでも、誰よりも打ち込める自信がありますから。


そんな仕事と出会えたのも、つくづく運がいいなと、思いますね(笑)。


profile ソンジン

1990年 韓国ソウルに生まれる

2018年 日本大学芸術学部写真学科卒業

2018年 株式会社 アマナ入 社

2021年 フォトグラファーとして活動を開始


Photographerへの5つの質問


1.趣味は?

ゲームです。世界観など作り手目線で刺激になる。作品のインスピレーションを受けることもあります。


2.好きなフォトグラファーは?

ニック・ナイト。


3.子供の頃の夢は?

大統領


4.撮影中によく流す音楽は?

クライアントなど、現場にいる方の好みに合わせています。


5.フォトグラファーとして大切にしていることは?

人柄。



<文/箱田高樹>

ソンジン

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ソンジン

Photographer 鈴木孝彰

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Takaaki Suzuki

シンプルさ、を芯に置き、広く、厚い「美味しい」をみせる。

Photographer 鈴木孝彰

FEATURED ARTIST

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