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「撮るより“つくる”が好みなんです」と、加藤雄也は言います。

だから彼の写真は幅広く、どの作品にも確かな“物語”が宿るのでしょう。


食の写真に特化したチーム「hue」所属のため、王道のシズル写真は当然秀逸。ただ食事のシーンを柔らかな光で切り取ったライフスタイル系の写真にこそ、本領を発揮します。


深いふところの奥底にある思い、哲学とは?

物腰やわらかな加藤に尋ねました。



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「美味しい」に軸足を起きながら。



――楽しげな食卓の風景や、料理を楽しむ雰囲気が伝わる、ライフスタイル系の写真が、加藤さんの“らしさ”ですよね。


軸足のひとつだと思っています。


「美味しそう」を前面に押し出すだけが、食の写真の役割ではありませんから。けれど、食べ物を囲むと、人と人の距離が自然と近づいたり、雰囲気が柔らかくなったりする。


そうした食のまわりにある空気感や、世界観を写しとる。そんな写真を撮る機会が多く、得意としています。



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――一方で、まったく違う作風の、シンプルでダイナミックに美味しさが伝わるシズル写真も撮られています。


hueというシズル表現を得意とする集団にいて、アシスタントの頃からその道のスペシャリストである先輩たちの仕事ぶりを間近でみて、学んできましたからね。


じゅわっと肉汁があふれる写真。

パリッとした野菜の鮮度が伝わる写真。

そうした「美味しそう」が第一に伝わる表現は、真ん中の軸足として、僕の中にどっしりとあります。


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――松屋銀座のビジュアルは、とくにシンプルにどっしりとした美味しさが伝わってくるものが多いですね。




松屋さんはおせち料理からはじまり、東京メトロの銀座駅から松屋に向かう「松屋通り」に飾られた連作のポスターなどを撮影させていただいています。


ふわっとした雰囲気の、他の作品を知っている方からは驚かれるほどストレートなシズル表現をしていますね。


器用にいろいろ撮るので、「食も撮れて人物も得意なカメラマンに」といった要望をいただくことも多い。元もと僕はなんでも手を出したがりな性格なんです。


裏返すと「子供の頃から野球一筋でやってきました!」といった人にコンプレックスみたいなものはあるかもしれません。




――作風をこだわらないのは、もともとの性格にある?


ええ。加えて僕が広告写真を志してこの世界に入ったわけではないことも、理由のひとつかもしれません。



理想の光を、自ら生み出す。


――そもそもカメラとの出会いは?


小学校低学年です。最初は親に買ってもらったキャラクターが描かれたおもちゃのカメラ。当然、なかなか思うような写真が撮れなかったんですけど、楽しかった。


――その頃、感じていたカメラ、写真の魅力は何だったのでしょう?


記憶、でしたね。


まだギリギリ、フィルムの時代。撮った写真を現像に出して、数数日後プリントがあがってくるのが楽しみでした。たいてい「思ったのと違う」とは感じるのですけどね。ふいに撮影のときにみた風景が音やにおいと共によみがえってくるのがよくて。


「もっとキレイだったけどなあ」とか「少しブレてしまった」ともどかしさみたいなものも含めて、好きでした。


――そのまま写真は撮り続けたのですか?


ほそぼそとは。ただ当時は、写真ではなく立体、「ものをつくることがしたい」と美術科のある高校に進学。金属工芸を学びました。


小学校の頃から図工は好きで、とくに絵よりも粘土などの立体をつくるほうが好みでした。渋いのですが、そもそもガラス工芸や蒔絵をやりたいなと思っていたのです。


――渋い中高生ですね。ただ、その後、日芸(日大芸術学部)に進んで、写真学科に入られました。


はい。やはり”つくる”ことが好きなので造形で美大を目指していました。


ただ、そのために予備校に通っていたのですが、受験のためのデッサンを学ぶことに嫌気を感じ始めたんです。


同時に、その頃、自分で撮った写真フィルムを現像する「暗室作業」に興味が出てきた。写真という領域でも、手を動かして、なにかを“つくる”ことはできるかもしれない、と考えたのです。


ですので、ファッションや広告写真に興味がないまま、写真を学びはじめました。むしろ技法やアート写真に興味がわき、3年生になると「古典技法」という、感光剤を自分で塗布して印画紙から仕上げたりしていましたね。


――その大学時代から、アマナに出入りされていたそうですね。


はい。当時はアマナの子会社だったhueが月1回実施していた学生向けワークショップに参加していました。


もっとも、僕は先述通り、広告写真に興味がなったので、友人に誘われて参加しただけ。ただ、意外とおもしろくて。


――どこにおもしろさを感じたのでしょう?


まずプロの写真家の仕事を間近で見られるのは貴重でした。さらに、食の撮影が、食材や料理、食器などはもちろん、湯気や煙が出る仕掛けや、作り込んだライティングを複雑にからめて、手で“つくる”作業が多いなと感じたのです。


いま思えば、モデルの撮影もプロダクト撮影も似たところはあるのですが、当時の僕にはとても新鮮で、好奇心を刺激されました。


――そしてhue(現アマナ)に入社して、現場でアシスタントをした後、2年でジュニアフォトグラファーに。その2年後にフォトグラファーに昇格しました。早い、ですよね。


そうですね。アシスタントからジュニアにあがるのは平均3年なので、早いほうだったかもしれません。


どちらかというとやわらかめのライフスタイル系が得意で、他のシズルカメラマンの先輩方との違いを際立たそうとしていたことも功を奏したと思います。

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――当時の作品をみると、自然光の斜光線がとてもいい雰囲気ですよね。


ありがとうございます。

ただコレ、自然光は使ってないんです。


――ライティングで再現した日の光なんですか? すごいな。


広告写真を目指してこの世界に入ってないように、僕にはなにか目指すべき目標のような理想の写真が、なかったんですね。最初は少し悩みましたが、「それなら自分の理想をつくるところからはじめてみよう」と思いつきました。


その理想とはなにかといえば、”自分の手ですべてをつくる”ことでした。


昔、おもちゃみたいなカメラでスナップを撮り、切り取っていた光の感じ。狙ったものとはまた違う写真のおもしろさ。そうした写真をゼロからコントロールしてつくりあげようと考えました。実は大学の卒業制作でも、スタジオ内でロケ撮影のような光をつくって見せる、という作品をつくっていたので、よほど僕は好きなんでしょうね。つくるのが。



クライアントの声を、ていねいに聞き出すワケ。


――それにしても加藤さんのこうした作品は、多くを語らずとも、なにか物語が透けて視えてくる気がします。理由は何なんでしょうね。


観る方に自由に感じていただければいいとは思っていますが、ひとつこだわっているのは、 「これは午後2時の光」とか「正午のランチどきの光」といった具合に、 具体的な時間を設定してすべて撮っています。


たとえば、このパンの写真ならば、「忙しくて食べる時間がなかったけれど夕飯までがまんできないから、夕方5時前にとった少し遅めのおやつ」といった具合に自分の中だけでシチュエーションを設定している。


だから、ちょっと暗めの暖色系の光を低めにあてて、カーテン越しの光を表現したつもりです。



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――なるほど。緻密な世界観がすでに加藤さんの中にあって、それを高い技術で形にしている。だからこそ、一枚の写真に流れる物語を感じ取れるんでしょうね。


そうなっていればうれしいです。とはいえ、本当にこちらの押し付けた主張と違う感じ方をしてもらっても全然いいと思ってもいます。ポストモダン的な解釈で、自由に写真に触れてもらっていい。


ただ、少なくとも、仕事の写真でも、クライアントがその写真に抱かせたいストーリーや背景をできるだけ伺うようにしています。


仮に「ペットボトルに水がかかっている、勢いのある写真にしたい」というオーダーがあったとしたら、「なぜ水なのか」を必ずといます。


「みずみずしさを商品に宿したいのか」「スポーティなイメージを伝えたいからか」と聞いてみると、実はいろんな角度があって、伝えたい思いがあるものですからね。


――「撮影が早い」と評判ですが、そうした取り組みも大きな要因でしょうか。


ひとつあるかもしれません。


あとは、絵も学び、ガラス工芸も経験して、今も家では植物や野菜を育てたり、金継ぎをしていたりする。趣味でも、日々の生活の中でも、いろんな「つくる」ことを続けている。


ようは頭の中で描いた物語を2次元にしたり、2次元の絵を立体で表現したり、3次元の立体を平面にしたり、といった認知と表現をずっと続けてきた。


雑多にものをつくってきて自然と培った構成力と着想の幅みたいなものは、人よりある気がします。


結果として「照明が足りない」とか「ラフがない」といった場合でも臨機応変に対応できる。いろんな引き出しがあるので、状況に応じて最適解を出すのは、少し早いかもしれません。


――今後のビジョンは?


少しずつ増えているのですが、動画案件は積極的にやっていきたいですね。ハイエンドのシズル表現よりも、少しラフで生活感のある動画表現は得意分野なので、とくに。


とはいえ、撮るよりも、やっぱり”つくる”が好み。つくることを続けていけたらいいなと思っています。ここで言っていいのかわかりませんが、それは写真や動画じゃなくてもいいくらいで。


ただ、自分がつくりあげたなにかが、誰かの記憶の片隅に長く残っていく。そんな仕事をしていけたら、うれしいですね。




Photographerへ5つの質問


1.趣味は?

コーヒー、植物、金継、野菜づくり……。以前、祖母が住んでいた我孫子のふるい一軒家を趣味のガレージにして、すべて楽しんでいます。


2.好きなフォトグラファーは?

オノデラユキ。


3.自宅の壁に飾ってある写真は?

写真はないのですが、中高生の頃に絵を習っていたときの先生が描いた小さな抽象画はずっと壁にありますね。


4.撮影中によく流す音楽は?

LUCA、haruka nakamuraが好きです。


5.フォトグラファーとして大切にしていることは?

よい写真を撮ること。

加藤 雄也

加藤 雄也

Yuya Kato

加藤 雄也

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計算された"偶然”を――。
リアルにしか宿らぬ美しさを掴む。

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シンプルさ、を芯に置き、広く、厚い「美味しい」をみせる。

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