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26 Dec 2025

「撮るより“つくる”が好みなんです」と、加藤雄也は言います。

だから彼の写真は幅広く、どの作品にも確かな“物語”が宿るのでしょう。


食の写真に特化したチーム「hue」所属のため、王道のシズル写真は当然秀逸。ただ食事のシーンを柔らかな光で切り取ったライフスタイル系の写真にこそ、本領を発揮します。


深いふところの奥底にある思い、哲学とは?

物腰やわらかな加藤に尋ねました。




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「美味しい」に軸足を起きながら。



――楽しげな食卓の風景や、料理を楽しむ雰囲気が伝わる、ライフスタイル系の写真が、加藤さんの“らしさ”ですよね。


“らしさ”のひとつかもしれません。


「美味しそう」を前面に押し出すだけが、食の写真の役割ではありませんからね。 けれど、食べ物を囲むと、人と人の距離が自然と近づいたり、雰囲気が柔らかくなったりする。


そうした食のまわりにある空気感や、世界観を写しとる。そんな写真を撮る機会が多く、得意としています。




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―― 一方で、まったく違う作風の、シンプルでダイナミックに美味しさが伝わるシズル写真も撮られています。


むしろこちらが、自分にとっての軸足で、出自です。


hueというシズル表現を得意とする集団にいて、 アシスタントの頃からその道のスペシャリストである先輩たちの仕事ぶりを間近でみて、学んできましたからね。


じゅわっと肉汁があふれる写真。

パリッとした野菜の鮮度が伝わる写真。

そうした「美味しそう」が第一に伝わる表現は、真ん中の軸足として、僕の中にどっしりとあります。


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――松屋銀座のビジュアルは、とくにシンプルにどっしりとした美味しさが伝わってくるものが多いですね。




松屋さんはおせち料理からはじまり、東京メトロの銀座駅から松屋に向かう 「松屋通り」に飾られた連作のポスターなどを撮影させていただいています。


ree

――ふわっとした雰囲気の、他の作品を知っている方からは驚かれるほどストレートなシズル表現をしていますね。


器用にいろいろ撮るので、「食も撮れて人物も得意なカメラマンに」といった要望をいただくことも多い。 元もと僕はなんでも手を出したがりな性格なんです。



理想の光を、自ら生み出す。


――そもそもカメラとの出会いは?


小学校低学年です。最初は親に買ってもらったキャラクターが描かれたおもちゃのカメラ。 当然、なかなか思うような写真が撮れなかったんですけど、楽しかった。

ree

小学生の時に初めて手にしたカメラ。

――その頃、感じていたカメラ、写真の魅力は何だったのでしょう?


記憶、でしたね。


まだ、フィルムの時代。撮った写真を現像に出して、数日後プリントがあがってくるのが楽しみでした。

たいてい「思ったのと違う」とは感じるのですけどね。 ふいに撮影のときにみた風景が音や においと共によみがえってくるのがよくて。


「もっとキレイだったけどなあ」とか「少しブレてしまった」ともどかしさみたいなものも含めて、好きでした。




――そのまま写真は撮り続けたのですか?


はい。趣味として撮り続けていましたね。ただ当時は、写真も好きでしたが、 それ以上に立体、「ものをつくることがしたい」と美術科のある高校に進学。金属工芸を学びました。


小学校の頃から図工は好きで、とくに絵よりも粘土などの立体をつくるほうが好みでした。 そもそもガラス工芸や蒔絵をやりたいなと思っていたのです。




植物を育てること、木工、金継ぎ、コーヒー焙煎、と 好奇心に従うままに、今もものづくりの時間を楽しんでいる。 なかでもコーヒーは好きが高じて、J.C.Q.A.コーヒーインストラクター2級の資格を取得


――渋い中高生ですね。ただ、その後、日芸(日大芸術学部)に進んで、写真学科に入られました。


はい。やはり”つくる”ことが好きなので造形で美大を目指していました。


ただ、そのために予備校に通っていたのですが、 受験のために朝から晩まで、デッサンを学ぶことに少し疲れてしまい……。


前後して、自分で撮った写真フィルムを現像する「暗室作業」に興味があったことをふと思い出しました。 写真という領域でも、手を動かして、なにかを“つくる”ことはできるかもしれない、と考えたのです。


そして、日芸(日本大学芸術学部)の写真学科に入り、写真を学びはじめました。


当時は、アート写真や技法への興味が強く、古典技法を学びました。 3年生の時には感光剤を自分で塗布して印画紙から仕上げたりしていましたね。



――その大学時代から、アマナに出入りされていたそうですね。


はい。当時はhueが月1回実施していた学生向けワークショップに参加していました。


もっとも、当時は広告写真に興味がなかったので、友人に誘われて参加しただけ。 ただ、意外とおもしろくて。


――どこにおもしろさを感じたのでしょう?


まずプロの写真家の仕事を間近で見られるのは貴重でした。 さらに、食の撮影が、食材や料理、食器などはもちろん、 湯気や煙が出る仕掛けや、作り込んだライティングを複雑にからめて、 手で“つくる”作業が多いなと感じたのです。


いま思えば、モデルの撮影もプロダクト撮影も似たところはあるのですが、 当時の僕にはとても新鮮で、好奇心を刺激されました。


――そしてhue(現アマナ)に入社して、現場でアシスタントをした後、2年でジュニアフォトグラファー。その2年後にフォトグラファーに昇格しました。昇格試験での作品は自然光の斜光線が、とてもいい雰囲気ですね。

アシスタント時代に撮影されたパーソナルワーク

――けれど、これライティングで再現した陽の光らしいですね。


はい。大学の卒業制作でも、スタジオ内でロケ撮影のような光をつくって見せる、 といった作品をつくっていました。


自分の理想を、自分の手のなかでコントロールしてつくる、といったことが、よほど好きなんでしょうね。

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クライアントの声を、ていねいに聞き出すワケ。


――それにしても加藤さんのこうした作品は、多くを語らずとも、なにか物語が透けて視えてくる気がします。理由は何なんでしょうね。


どの季節のどんな時間帯なのか、どういう人が誰と食べているのかと言ったストーリーを 思い浮かべながら、その人の気持ちを想像して撮影をしているからかもしれません。



たとえば、このパンの写真ならば、午後15時くらいのゆったりとしたティータイムで 「パン好きの午後のおやつ」といった具合に自分の中でシチュエーションを設定している。



午後、太陽の直射が窓を通りすぎたくらいの時間をイメージしています。

外で拡散した光が窓を通して、 穏やかに部屋に入ってくる様子をライティングで再現しました。





ree

――なるほど。緻密な世界観がすでに加藤さんの中にあって、それを高い技術で形にしている。だからこそ、一枚の写真に流れる物語を感じ取れるんでしょうね。


そうなっていればうれしいです。 とはいえ、こちらの意図と違う感じ方をしてもらっても全然いいと思ってもいます。


とくに作品に関しては、余白を多く設定するようにしていますので、 観る方が自由に写真に触れてもらっていい。


仕事の写真でも、クライアントがその写真に抱かせたいストーリーや背景をできるだけ伺うようにしています。


「誰と食べて欲しいのか」とか、「どんな思いで開発したのか」とか――。

その仕事に関わる人それぞれに、それぞれ思いが当然ある。 写真の役割としてどのくらいビジュアルに落とし込めるかはわからないけれど、 そういうところをなるべく頭に入れた上で撮影に望みたいと思っているんです。


仮に「ペットボトルに水がかかっている、勢いのある写真にしたい」というオーダーがあったとしたら、「水で何を表現したいのか」を必ず問います。


「商品に潤い感を宿したいのか」「弾ける汗のイメージを伝えたいからか」と 聞いてみると、実はいろんな角度があって、伝えたい思いがあるものですから。


ree

――「撮影が早い」と評判ですが、そうした取り組みも大きな要因でしょうか。


ひとつあるかもしれません。


あとは、絵も学び、ガラス工芸も経験して、今も家では植物や野菜を育てたり、金継ぎをしていたりする。 趣味でも、日々の生活の中でも、いろんな「つくる」ことを続けてきたなかで、

頭の中で描いた物語を2次元にしたり、2次元の絵を立体で表現したり、 3次元の立体を平面にしたり、といった認知と表現をずっと繰り返してきました。


雑多にものをつくってきて自然と培った構成力と着想の幅みたいなものは、人よりある気がします。結果としていろんな引き出しがあるので、状況に応じて最適解を出すのは、少し早いかもしれません。


ただ撮影が早い、そのものよりも、その分、回り道していくつかの表現の違いを提案できたり、撮影中お客様との対話にゆっくり時間をとれることにこそ価値があると考えています。結果として、その場にいる全員の満足度をあげられますからね。


――今後のビジョンは?


少しずつ増えているのですが、動画案件は積極的にやっていきたいですね。 ハイエンドのシズル表現よりも、少しラフで生活感のある動画表現は得意分野なので、とくに。


とはいえ、撮ることだけにとどまらず、“つくる”が好み。もちろん、“つくる”には撮ることも内包されているのですが、幼少期から一貫している、「なにかをつくりたい」思いは消えずにあります。


そして自分がつくりあげたなにかが、誰かの記憶の片隅に長く残っていく。

そんな仕事をしていけたら、うれしいですね。



加藤が撮影をしたコマーシャル・フォト25年9月号の表紙。
「夏の夕暮れ、自宅の窓辺、アイスクリームを好きなだけ盛り付けて」という設定で撮り下ろした作品。  ナチュラル感やラフさを残しつつ、印象に残るシズル感は丁寧に撮影している。

コマーシャル・フォト2025年9月号 特集「SNS時代の料理写真術」表紙撮影メイキング



profile 

加藤雄也

1990 千葉県生まれ

2013 日本大学芸術学部写真学科卒業

2013 株式会社アマナ入社



日々の美しさを見つめなおすような写真を目指し、食やライフスタイルの分野を軸に撮影を行っている。

味や香りをふくよかに伝えながらも、全体が光に包まれて溶け合うような、

やわらかで一体感のあるライティング表現に定評がある。



Photographerへ5つの質問


1.趣味は?

コーヒー、植物、金継、野菜づくり等。


2.好きなフォトグラファーは?

オノデラユキ。


3.自宅の壁に飾ってある写真は?

写真はないのですが、中高生の頃に絵を習っていたときの先生が描いた小さな抽象画はずっと壁にありますね。


4.撮影中によく流す音楽は?

LUCA、haruka nakamuraが好きです。


5.フォトグラファーとして大切にしていることは?

あとで見返した時に改めて「いいな」と思えるものを作ることと、そのための合格ラインの引き方。



<文/箱田高樹>


加藤 雄也

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